特別インタビュー! 【東京都トラック協会 会長(千代田運輸株式会社 取締役社長)水野功氏】

ドライバーはなくてはならない仕事。もっとたくさんの人が安心してドライバーになれる社会を目指して。
物流は経済を支える血液。この世になくてはならないエッセンシャルワーカー。
1953年に父が創立した千代田運輸(当時:水野陸送株式会社)ですが、父が病気になり跡継ぎが必要ということで、私は33歳で異業種からこの業界に転職しました。以来、38年間、物流業界に身を置いています。
よく言われることですが、国民生活、経済活動を縁の下から支えているのが物流。身体にたとえるなら、物流は血液です。血液がなければ人間も動物も死んでしまう。経済も一緒です。
私が会長を務める東京都トラック協会では、2024年に『日本を復興する仕事。』という新聞広告シリーズを掲載しました。
コロナ禍のようなパンデミックが起きても、地震などの自然災害が起きても、物流を止めるわけにはいきません。メディアでは私たちの仕事が3Kの代表のように報道されることがありますし、社会で重要な役割を果たしている割には、ネガティブなイメージばかりが伝わっています。しかしながら、そのような状態では、新しい人は入ってきません。
物流業界の存在価値・意義を世の中に広く伝え、物流業界の地位、イメージを向上させたい。そんな想いから、『日本を復興する仕事。』というテーマでシリーズ広告を展開したのです。
ドライバーはマイスター。もっと仕事に見合った待遇・地位の改善が必要。
私は1986年5月に千代田運輸に入社しましたが、同年8月に父が他界し、入社してすぐに二代目の社長に就任しました。そのため現場でのドライバー経験は乏しく、だからこそドライバーへのリスペクトを強く持っています。
たとえば千代田運輸が得意とするキャリアカー(車両を運搬する車)のドライバーは、車両を運ぶ際に、乗用車を6台、軽自動車なら8台をトレーラーに積む必要があります。それを一人で、しかも1時間以内に、です。
キャリアカーの一番上に立つと地上約5mの高さ。非常に危険で、積載にも運転にも技術が必要。決して一朝一夕にできる仕事ではありません。そんな仕事を単に「ドライバー」と呼んでしまっていいのか、という想いは常にあります。
私は彼らを「マイスター(名人、職人)」だと思っています。彼らが一人前になるのに、最低でも半年から1年はかかります。それだけの技術を習得して、一人で十何mものトレーラーを引っ張って、一人で車両を積み下ろして。まさに名人、職人級の仕事です。そんな大変な仕事の担い手を増やしていくには、今のままではいけない。もっと仕事に見合った待遇・社会的地位が必要です。
世間では「2024年問題(トラックドライバーの時間外労働の上限規制により、ドライバー不足が懸念されている問題)」が騒がれていますが、私はこれを業界が変わるチャンスだと捉えています。危機というよりは、追い風です。
2024年問題が世に出てから、行政や政治家が本気でこの問題に取り組むようになりました。国土交通省だけでなく、経済産業省、中小企業庁、公正取引委員会、厚生労働省などあらゆる省庁が、管轄する業界や企業に対して旗振り役をしてくれています。
たとえば2020年、国土交通省がトラック運送業界における「標準的な運賃」を告示しました。
ドライバーの労働条件を改善しながら、私たち運送業者が持続的な経営をしていくために必要な「運賃の目安」を、国が示してくれたということです。
これにより、我々も荷主であるお客さまとの運賃交渉がしやすくなりました。
ドライバーの処遇を改善しないことには、業界の地位改善など絶対にできません。そして処遇を改善するには、必ず原資が必要です。
東京都トラック協会でも、国土交通省の運輸支局に標準的な運賃の届け出をして、お客さまと運賃の交渉ができるよう、各社に働きかけながらドライバーの待遇改善を進めています。

社員の安全を守るために、MRI検査の補助や、通信型ドライブレコーダーを導入。
千代田運輸は国土交通省が創設した「働きやすい職場認証制度」で二つ星を獲得しており、働きやすさの向上についてはいろいろな取り組みをしています。
ひとつは「中継輸送」の導入です。
たとえば東京から金沢までの長距離をトラックで行き来すると、往復で13時間ほどかかります。そうすると、一人のドライバーでその業務を毎日続けることは実質的に不可能ですし、また、一人のドライバーに往復運転を担当させるのは非常に危険です。そのため、中継地点を設けてドライバーを交代する「中継輸送」を取り入れました。これにより、一人ひとりのドライバーの負担を軽減しながら、長距離への輸送に対応することができています。
ほかには通信型ドライブレコーダーの導入も実施しました。千代田運輸では、600~700台の持ち運び可能な通信型ドライブレコーダーを導入しており、インターネットとつながったドライブレコーダーが、トラックの急動作、急ブレーキなど、「急」がつく動作を即座にキャッチ。トラックがどこにいて、何があったかを瞬時に映像で見られるようになっています。
私たちはゼロ災(労働災害をゼロにする)を目指していますが、業務の特性上、たとえこちらに非がなくても、事故が起こることはあり得ます。いざ何かが起こったときに「私は被害者だ」と言っても、それを証明するものがなくては、会社としても適切な対応ができません。
だからドライバーには、「自分の身を守るためにドライブレコーダーを使ってほしい」とお願いし、今では当たり前の運用になりました。
また、社員の健康管理にも力を入れています。具体的には健康診断はもちろん、MRI検査、SARS(重症急性呼吸器症候群)の検査費用の会社負担を始めました。
ドライバーは高齢化が進んでいるので、MRI検査は絶対に受けたほうがよいと考えます。万一、運転中に脳疾患を発症すれば、重大事故に直結します。そのため、千代田運輸ではMRI検査の受診費用を会社が全額負担。また、東京都トラック協会でも加入業者の従業員1名につき1万円を助成金として補助しています。
さらに、今年からは健康診断の再検査の費用も補助(上限5,000円)を出すことにしました。おかげで、再検査の受診率がかなり上がっています。

とにかくドライバーファースト。もっとたくさんの人が安心してドライバーを目指せる社会へ。
2024年6月、東京都トラック協会の会長に就任しました。その際に所信表明でお伝えしたのが、「とにかくドライバーファーストだ」ということ。
ドライバーの立場を一番に考え、処遇の改善、環境の改善、商慣習の改善に本気で取り組んでいきます。
たとえば大型トラックの場合、「実技の練習場所が限られる」という問題があります。練習場所が限られると、担い手が増えません。そのため、東京都トラック協会の取り組みとして、今後はeラーニングの導入・拡充に力を入れていきます。安全運転などの講習も、自宅や勤務先で受けられれば受講者が増えるはずです。
また、将来的にはシミュレーターの導入も進めたいと考えています。シミュレーターがあれば、大きなスペースを必要とすることなく、2~3畳のスペースで、運転等の練習ができます。それらの導入・推進を東京都トラック協会のサービスの一環として始められないか模索しています。
さまざまな取り組みを進め、他産業に追いつくぐらいに賃金を上げ、業界の環境を変え、多くの新卒ドライバーが入ってくるような業界にしていく。もっとたくさんの人が、安心してドライバーという職業に就ける社会にしていく。それが私の想いです。
千代田運輸株式会社の採用情報はこちらから!
https://chiyodaunyu.com/employment/
「働きやすい職場認証」を取得している認証事業者の千代田運送株式会社で働くドライバーさんの現場も取材をしました。 ぜひ、併せてご覧ください。
~ 女性でもトラックドライバーができると安心したポイントとは⁉ ~
働きやすい職場認証制度 認証事業者の現場レポート! 【トラック事業者:千代田運輸株式会社】編
https://www.untenshashokuba.go.jp/?p=7672
記事制作:ディップ株式会社